最後の恋

6.葛藤<side R>

 ―高2 11月―

人生でこれ以上の幸福はないと感じてから、1ヶ月。
あれ以来、自分の気持ちが変化しつつあることを、俺は感じていた。


あかねのことは好きだ。初めて会ったときから、ずっと好きだった。
一生守ってやりたいし、側で笑っていてほしい。

その想いは変わっていないのに。

あかねが『俺のもの』になってくれたんだという認識が、勝手な思い込みが、段々俺を自分勝手な方向へ突き動かす。


あかねは俺のものだ。
俺だけのものだ。

なのに、なんで他のヤツと喋るんだろう。
なんで常に俺の側にいてくれないんだろう。
なんで俺だけを見てくれないんだろう・・・。


あかねを何処かに閉じ込めて、四六時中一緒にいたい、なんて考えがふとよぎる。

そんなこと出来るわけないのに。
尋常じゃない。考える方がどうかしてる。

そう自分に言い聞かせるものの、思いは止まらない。


夜だって、本当は毎日一緒に眠りたいんだ。
けど、家族がいる中でそんなこと出来るわけないし、あかねに無理もさせられない。

痛い思いや、辛い思いをさせるのは嫌だ。
でも、我慢する俺にだって限界がある。


家族がいたって関係ない。
場所なんかどこでもいい。
今ここで、あかねをめちゃくちゃにしたい。


そう思った瞬間、俺はその考えに無理矢理フタをしてこれ以上妄想が進まないようにする。

守りたい。大事にしたい。
汚したい。壊したい。

ダメだ。
あかねを傷つけたくない。
それだけは、絶対だ。

この矛盾する想いに終止符が打たれる日は来るのか・・・。



 ―高2 12月―

もうすぐクリスマス。
あかねと過ごす、初めての、恋人としてのクリスマス。


とても幸せだ。時々、自分の考えにいらつく以外は。
ただ、俺には気になることがあった。

シャンプーやうっちゃん、小太刀が、ここのところ姿を見せない。
以前は学校でも街中でもよく見かけていた、もとい追いかけられていたのに。

いつ頃からだったか。たしか2ヶ月ぐらい前から、ほとんど会っていない。

多分、俺が何かを言いたげにしているのが、分かるから。
それが本気であることが分かるから。

だから避けている。そんな気がした。


でも、あかねとこうして付き合っている以上、俺はあの3人に、俺の想いをきっちり伝える必要が、あると思う。


良牙には、ついこの間偶然会った時、俺たちのことを伝えた。

殴り合いになった。もちろん叩きのめした。
俺が真正面からはっきりと
「あかねだけは、誰になんと言われようと譲れない。渡せない。・・・あかねのことが、好きだから」

そう言ったことが、多少なりとも良牙には驚きだったようだ。

納得はしてくれなかったが、理解はしてくれた、ように思う。
次に会ったときは、違う接し方が出来る。そんな確信を持てた。


あの時、俺はやっぱりこのままなあなあにするんじゃなくて、きちんと伝えた方がいいと改めて感じた。
残酷かもしれないけど、それが俺にとっても、あかねにとっても、あいつらにとっても一番良い結果につながる。



そう信じて、俺は3人を空き地に呼び出した。

3人は、時間通りにそこへやってきた。

「何か用か、乱馬」
「何や、乱ちゃん」
「何ですの? 乱馬さま」
口々に呟く3人を前に、俺は率直に話を切り出した。

「俺、あかねと自分の意思で付き合ってる」

空気が、変わった。

「あかねが、好きなんだ。一生守ってやりたいと思ってる」
訪れる沈黙。重い空気。

「だからなにか」
最初に口を開いたのはシャンプーだった。
「そんな話、聞きたくありませんわ」
小太刀は去っていった。
「用が済んだなら、私行くね」
シャンプーも表情を変えないまま、飛び去っていった。

一人残ったうっちゃんに
「・・・うっちゃん」
と声を掛けた。すると
「ごめんな、乱ちゃん。今何も言うてあげられへんわ」
一言の後、彼女もいなくなった。


俺は余計なことをしたのだろうか。

いや、自己満足だったにせよ、俺は後悔していない。
あかねの元に帰ろう。


そうして訪れたクリスマスは、家族も交えて穏やかに過ぎていった。


   “たとえ今夜 この夜が崩れようと 二人の強い思いだけは 壊せない
    このまま抱きしめていよう 壊れるくらい”



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