最後の恋

1.維持<side A>

 ―高2 4月―

桜がちょうど満開だった。
始業式の日は青空が澄み渡っていて、桜のピンク色を尚色鮮やかなものにしていた。

高2になったあたしたち。偶然なのか誰かの差し金なのか、1−Fだったクラスメイトたちはまたほとんど同じクラスになった。


もちろん、乱馬も一緒。


素直に嬉しかった。

実は違うクラスになったらどうしようって、前日眠れないくらい緊張してたから。
本人には言えないけど・・・。

数日前、不安だったから
「クラス替えってどうなるのかな」
って思わず口に出したら
「さあな。あの校長が最終確認するなら、俺なんか1年のクラスに入れられてそうだぜ」
なんてあっけらかんとしてて、ちっとも真剣に考えてないみたいだった。

乱馬にとって教室は『寝るための場所』くらいで、どこでもいいのかもしれない。
友だちだってすぐに出来るし。


ああ。緊張してた分、一気に眠くなってきた。
始業式の最中にきっと寝ちゃうな・・・。



 ―高2 5月―

新しいクラスにも慣れてきた。・・・と言っても、最初からみんなかなり馴染んでたけど。

今の季節って、何をするにもだるい。
午後の授業は必ず眠くなるし、移動教室もぎりぎりになって用意、走って移動。


そんな中でも乱馬は相変わらず。


授業中は常に寝てるか早弁してる。

乱馬はいつも左側を向いて寝る癖があるみたい。
だから、こうして寝顔を見ていられる。
みんなが席替えの度に隣にしてくれるのを、口では「もーっ、またー?」と不服そうにしながら。

本当は、起きてるとき真っ直ぐに目を合わせることなんて出来ないから。

寝顔を見ることが、あたしの授業中の密かな楽しみ。


体育の授業ではもちろん大活躍。

何のスポーツをやらせても一番光ってる。
当然、女の子たちはそれを見て騒ぐわけで・・・。

あたしはそれを見て見ぬフリ。
「あかね、今の見た!?」
とか
「乱馬くんかっこいいよね〜」
とか言われても、気のない返事。

本当はすごく気になってるし、すごいプレーとか見ちゃうと正直かっこいいって思う。
けど、それを認めるのはなんか悔しくて。


あたしばっかり好きみたいだから。


「そう?」
とだけ返事して、横目でちらちら姿を確認。

我ながら可愛くないとは思いつつ・・・。



乱馬のことが“好き”。
そう思うようになって、どれくらい経つだろう。

いろんなことがあって。
命懸けで戦ったりして。

呪泉洞であたしが元に戻る直前、乱馬は・・・。

あの時のことを思い出すと、胸が熱くなる。
必死で助けてくれた。守ってくれた。あたしのために、泣いてくれた・・・。

そんな乱馬が、あたしのことをどう思ってるのか、聞きたくないわけがない。

だけど、今こうして乱馬と過ごしている毎日は居心地が良すぎて。
同じ家で暮らしていて。一緒に登校して、同じ教室で授業を受けて、一緒に帰って。


気持ちを伝えることで、この関係が変わってしまったら?


ううん、変わらないでいられるわけがない。

乱馬があたしのことを受け入れても、受け入れなくても。
口に出してしまったら、もう今の関係には戻れない気がする。

例えば、お互いの意思で付き合うようになったとして、周りはそれをすんなり認めてくれるのかな。みんなの前でラブラブしたりするようになるのかな。・・・反対に、完全にあたしの片思いだったら、あたしはフラれた後普通に一緒に生活なんて出来ないな・・・。

そんな、シミュレーションばかりしたって仕方ないのに、毎日同じことをぐるぐる考えてる。

もしかしたら良い方向に向かうかもしれない。
でも今のあたしには『変化』が一番怖い。

だから、もう少しこのままで。
このままの二人でいさせて。


   “臆病なばかり 強がってしまう かわい気のない アタシでもいいの?”


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