不機嫌な王子様 番外編『フェアリー・ガーデン』

「乱馬・・・? ここにいるの?」

王妃である母の声が聞こえました。
でも王子は、返事をすることが出来ませんでした。

なぜなら、王子は泣いていたからです。

理由は簡単でした。
今日開かれた年に一度の王国剣術大会で、王子は負けたのです。
しかも、二回戦で。

王子の9歳という年齢を考えると、誰の目から見ても負けるのは当然でしたが、王子自身は悔しくてたまらず、堪えきれない涙をこの『フェアリー・ガーデン』で人知れず流していました。

そこへ、王妃・のどかがやってきました。

母親には、息子がどうしているのか手に取るようにわかりました。
迷わずこの庭園に入ってくると、泣いている王子をベンチに座らせ、自分も横に座りました。

「気にすることじゃないわ」
そう言う王妃に、
「・・・でも!」
王子は下を向いたまま反論します。

そんな王子に、王妃は優しく語り掛けました。

「ねえ、乱馬が目指している『強さ』ってなあに?」
「・・・・・・?」
「その『強さ』を手に入れたとして・・・貴方はどうするの?」
「・・・・・・」
思わず涙を止めて顔を上げた王子に、王妃はにっこりと笑いました。

「本当の『強さ』が求められるとき・・・それは愛する人を守る力が必要なときよ。だから今は・・・貴方はもっとたくさん負けて、たくさん泣いて、そしていつか愛する人が現れたら・・・」
「現れたら?」
「今までたくさん積み重ねてきた『強さ』で愛する人を守ってあげなさい」
「・・・・・・」
「いつ頃になるのかしら? きっとまだまだ先だろうけど・・・母さまは、貴方の選んだ子なら間違いないと思うわよ。そんな子が現れたら、その子をこの『フェアリー・ガーデン』に招待してあげてね」
「母上・・・ありがとうございます」
強い意志を取り戻した瞳を見て、王妃は安堵の表情を浮かべました。

王子の心は晴れやかでした。
いつか出逢う、たった一人の運命の人。
その人を守る力を、強さを、今は蓄えてゆく。

『そんな子がもし現れたら・・・ここで誓いのキスをして、一生僕が守っていく』
王子は、可憐に咲き誇る白い花々を見つめて、幼き心にそう誓ったのでした。



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幼い頃から聡明だった乱馬王子と、息子を温かく見守る王妃のお話。
原作ではこんなこと(母子の触れ合い)絶対になかっただろうから、書いてみた。