クリスマス -2005年ver.-

時は12月25日、クリスマス当日。

俺は焦っていた。
この指輪を、日付が変わる前に・・・クリスマスが終わる前に彼女に渡さなくては。

昨日は道場でクリスマスパーティが行われた。
俺は終始指輪の存在を知られまいと必死だった。

正直、知られて困らない人間が・・・いない。
無理矢理奪われるか、壊されるか、ゆすられるか・・・祝言の用意をされるという可能性もある。

「今年は、プレゼントなんて面倒くさいもん買ってねー」
言いながらこっそりポケットの中の物を確かめる俺を、いぶかしげに見るあいつら。
「怪しい・・・」
そう言っていたことを考えると、もしかしたらプレゼントを持っていたこと、とっくに気付いてたのかも。
しかし無理矢理探られたりはしなかったな・・・その辺あいつらも少しは大人になったの・・・か?

24日は、結局あかねとほとんど目も合わせられないまま過ぎ去った。
下手にあかねに近づくと、その場にいる全員がこっちに注目しそうだったし、お互いそんな暇もなかった。

だから今日は、今日こそは渡す。

俺はこっそりと家を抜け出した。
向かった先は、近くの公園。
あかねは来ないかもしれない。
気付いていないかもしれない。

けど、この方法に賭けるしかなかった。

あかねならきっと気になって探しに来るだろう。
その時に一瞬で渡せばいいだけだ。
余計なことを考えると、渡せなくなりそうだから。


────────来た。


足音で分かる。
気配で分かる。

「乱馬? あんた何やってんのよこんなとこで」
姿がはっきり確認できるところまで来てから、あかねはベンチに座っていた俺にゆっくりと近づきながらそう声を掛けてきた。

俺は立ち上がり、出来るだけ自然に
「なんでもねーよ」
と言うと、あかねにラッピングされた箱を渡してあかねの前を通り過ぎた。

「乱・・・馬? これ・・・?」
「やるよ」
「・・・・・・」
背を向けて歩き出していたのに、訪れた沈黙に俺は思わず振り返った。

「・・・開けていい?」
そう聞いた彼女の顔があまりにも嬉しそうだったので、俺は
「あ、ああ」
と頷いた。
するとあかねは丁寧にラッピングを外し、箱を開けた。

俺はあかねの反応が怖くて、
「・・・帰るぞ!」
と突然走り出した。
「えっ・・・? 待ってよ、乱馬!!」

慌てて一生懸命ついてくるあかね。
その気配を感じながら、俺は一人満足していた。
こういうのは勢いが大事だ。
うん、もう後のことを考えるのはなしだ。
渡せたから、それでいい。

そう思っていたのに、あかねは俺を呼び止める。
「乱馬・・・乱馬ってば! 待って!」
俺が立ち止まると、あかねも立ち止まった。

息を切らして下を向いていたあかねがゆっくりと顔を上げた時、その艶っぽさにどきっとした。
こんな表情、するんだ・・・。

期待と不安が交錯する。
あかねは何を言うつもりなのか。
何をするつもりなのか。

次の言葉を待つ間に、何億秒もあった気がした。
その言葉次第で、俺の返答も全く違う気がする。

今年のクリスマスは、何かが起こるかもしれない。
あかねがゆっくりと口を開いた。

「あ、あのね? 乱馬。私・・・」


2005.12.25
前サイトのトップページに、その時期、季節モノの小説として掲載していたものです。

アニメで何度かクリスマスネタは描かれていて、どれも乱あ色の強いものなので(特にすくらんぶるクリスマスは最高!)好きなんですが、自分でも1つ書いてみました。
こういうイベントネタはまだまだいろんなパターンで書けそう。