ケンカのあとに

あーもう。
なんでいっつもこうなっちまうんだ・・・。

事の起こりは些細なもんだ。
そう。
今日、学校で、HR終了後に。

あかねが、クラスメイトから“黒豚のキーホルダー”をもらって。
お土産だかなんだか知らねーが、とにかくあかねはそのキーホルダーをもらって「Pちゃんみたい!」と大喜びしていた。

どこにつけようか散々悩んで騒いだ挙句、俺に「どこにつけるのがいいと思う?」なんて聞いてくるもんだから、俺が答えたのは一言。
「知らねーよ」
見たくもないそのキーホルダーから、極力目を逸らして。
さらにもう一言。
「どこでもいいんじゃねーの?」

ついでに
「大体そんな趣味のわりーもん、俺ならつけねーよ」
と、自分の思ったままを口にした。

だってそーだろ?
黒豚なんて悪趣味極まりない。
止めた方がいい。
そんなもんつけてたら黒豚P助がいない時もいるような気分になるし、どこででも見られてるような気になっちまう・・・。

って、俺は別に黒豚のことなんかどうでもいいんだけど。
全く気になんかしてないけど。

とにかく、何気なく言ったつもりが、あかねはその対応を気に入らず、勝手に怒り出して、教室をすごい勢いで出て行った。
だから俺はその後「面倒くせえなあ」とぼやきながらも、まだ皆が残っている教室を後にして追いかけた。

あかねは後姿でもはっきりわかるほど怒っていて、正直今は関わりたくない。
でも、何故かそのまま無視して帰ったりは出来なくて・・・。

結局いつものように、少し離れた距離を保ったまま様子を伺う俺。


そして、現在に至る。

俺は悪くない、と思う。
聞かれたから正直に自分の意見を言っただけだ。

なのになんで、こんなにもやもやした気分になるんだろう。
本当は、あかねの怒る顔なんか見たくない。
見たくないけど、何故かいつもこうなるんだ・・・。


あかねは、帰路の半分くらいまで来たところで、急に足を止めた。
「・・・なんでついて来るのよ」

「ついて来てねーよ」
思わず即言い返した。

「ついて来てるじゃない。学校からずっと。何? 何か用?」
「別に用なんかねーけど」
「だったら、ついて来ないで!」
「俺は家に帰ってるだけだ。そっちこそ、自意識過剰なんじゃねーの?」
「なんですってえ!?」

言い合いの末、いつものように飛んでくるカバン。
当たると痛いんだコレが。
俺は軽く身を屈めてそれを避けた。

「そんなにカリカリすることでもねーだろ? 怒りん坊」
「誰が怒りん坊よ! あんたがあたしの話をまともに聞かないから・・・!!」
彼女は尚もカバンを振り回しつつ叫ぶ。

俺はそれを少しずつ後退しながら避け、
「まともに話聞かないって、何だよ。俺はちゃんと・・・」

ん?
コイツ、黒豚のキーホルダーを馬鹿にしたこと怒ってんじゃないのか?

そう思った瞬間、俺は彼女の目に涙が溢れそうなのを見てしまった。
途端に、心臓が小さくなるような胸の締め付けを感じる。

な、泣く・・・それは困る!

俺は動きを止めた。
左頬にクリーンヒットしたカバンは、そこで勢いを失った。
思わず弾き飛ばされそうになるのを必死で我慢して答える。

「ちゃ、ちゃんと受け答え、しただろ」
「してない! いかにもあたしの話には『興味ない』って感じで・・・」

そ、そんな風に受け取ったのか・・・。
「えー、と、そんなことはない。全くそんなことはない。だからなっ。ま、帰ろうぜ」
「・・・何それ。悪いと思ってんなら、ちゃんと謝ってよ」

え。

「乱馬はいっつもそう。自分が悪かったとか、そういうことは絶対口にしないよね」
「そ、そんなことないだろっ。俺だってなぁ・・・」

いや、そんなことある。
けどなんか、謝る=負け、みたいなイメージがあって・・・。
そう思いながらも、頭は少しずつ謝ることを考え中。

俺は、あかねがこうして泣きたくなるほど悲しかったのが、黒豚に関することじゃなくて俺の対応のせいだったってことが嬉しかった。
だから素直に謝ろうという気にもなった。

「ああああのな、さっきは・・・」
俺は自分に出来る精一杯で、謝ろうと試みた。

『ごめんな』
『俺が悪かった』
『許してくれよ』


言えねー!!!


ちらりとあかねを見ると、いかにも俺の言葉を待ってますという真摯な表情。

瞬きしてんのか?と思うくらい、大きく輝く瞳。
身長差のために生まれるごく自然な上目遣い。
涙は影を潜めたけど、まだ少し目が潤んでいる。

その瞳でじっと見つめるのは止めてくれ・・・。

「目、目つぶれよっ!」
「? ・・・はい。これでいいっ?」

おう。
これで少しは素直に・・・。
・・・ってえええ!?


こ、この体勢は・・・
キキキキス出来たりしそうなんですけど・・・。


俺は自分の作り出した空間に驚くと同時に期待していた。
身体がぎくしゃくして不自然な動きになる。

タナボタってこのことかっ?
こういうことを言うのかっ??
あああその赤い唇に触れる一瞬の機会をお与え頂きたい。
こんな道路の真ん中でもいいでしょうかあかねさん・・・。

って俺は何を考えてるんだー!!!

これじゃどっかの方向音痴と変わらねーぜ。
俺は硬派なんだよ。
そんなやましい気持ちなんか持ってねーぞ!
おう!
でもこの状況を逃すのは惜し・・・

「・・・ねえ」

あ?

「・・・ねえってば!」
「なんだよ! 俺は今忙しいんだっっ!!」

思いっきり叫んだ後に、ふと俺に声を掛けたのは誰だ?と思う。
冷静になっていくと同時に、声の主が一番大事な方だと認識すると同時に、その方の声にものすごい怒気が含まれていることを察すると同時に・・・・・・。

「あーそう。わかったわよ。どんっだけあんたが不誠実かってことがね」
「もう・・・あんたなんか知らないっ! このいい加減男―――!!!」

あーれー。

渾身の一撃に身を飛ばされながらも俺は思う。
惜しいことした・・・。


2007.01.12
前サイトで一時期行っていた投票の、第1回「読みたい乱馬は?」という質問で1位に輝いた 「原作っぽい乱馬」にちなんだ小説です。

「原作っぽい乱馬」というと、もちろんかっこいい部分もたくさんあるんですが、あかねに対しては妄想癖があって、本人目の前にいろいろ考えたりするのに、それを全く行動に移せない・・・そんなイメージです。要するにヘタレ・・・はは・・・。
この頃、原作に沿った感じの小説をあまり書いていなかったので、とても苦労しました。
でもまたチャレンジしたいです。原作あっての二次創作ですから!