新学期

泣いて、笑って、ケンカして、また泣いて、笑って。
そうやって二人過ごした日々。

そうしてお互いが少しだけ素直になれた頃・・・。
俺とあかねは、高校2年生になった。

二人、また同じクラス。
口には出さなかったけど、俺はすごく嬉しかった。
いや、もし同じクラスじゃなかったら、校長に直談判しているところだ。
あの校長になら、クラスを替えさせる自信もあるし・・・。

新しいクラスには、知ってる奴もいればもちろん知らない奴もたくさんいた。
ゆかやさゆり、ひろしや大介が一緒なのは嬉しかった。
・・・が。
反面、嫌なこともあるということに、俺は進級するまで気が付かなかった。

それは、始業式の日のこと。
「ラッキー。天道あかねが一緒だぜ」
クラス発表のボードの前で、俺は我が耳を疑った。
声が聞こえた先を見ても、どう見ても俺は知らない奴。
なんで見知らぬ奴が、あかねのことを?
「いいな〜。俺、しょっちゅうお前のクラスに遊びに行くからな!」
「俺も、俺も」
・・・なんだそりゃ。
なんでお前らがあかねの顔を見に来るんだよ!?
来るな!!

俺は、あかねが以前大勢の男たちを踏み倒して毎日登校していたことを思い出した。
あかねはすごく人気があるってこと、俺が来てからは周りでそんな声を聞くこともなかったからほとんど意識しなくなっていた。
俺はとても不愉快な気分だった。

しかし、俺のイライラはそれで終わりどころか増える一方だった。

「はー、間近で見るとやっぱ可愛いよな〜」
「実はさ、俺今度、日直で一緒なんだよ!!」
次々と耳に入ってくる『虫』たちの声。
耳には自信がある方なので、嫌でもはっきりと聞こえてしまう。

1年のときは、俺らのことはほぼクラス全員の公認だったから、こんなこと気にしなくてすんだのに。
こんなに嫌な思いをしなくてすんだのに。
そしてよりによって、ウワサされている当の本人は、全くそのことに気付いていないからたちが悪い。
俺がイライラしているのにも気付かないで、あいつは他の男に平気で笑いかける。
それが俺をどんなに不愉快にさせているか、全然わかっていない。

そんなに他の男と話すな、他の男に笑顔を向けるな・・・。
何回その言葉を飲み込んだことか。

俺はすごく不機嫌な日が続いて、家でもあまりあかねと目を合わせなかった。
合わせたら、自分の身勝手な不満をあかねに全部押し付けてしまいそうだった。
しかし、わけがわからないあかねは当然、
「どうしたの? 乱馬」
と不安そうに何度も聞いてくる。

でもそんな顔で見られても、俺は何か言うことも出来ない。
なんて言っていいかわからない。

「なんでもねーよ」
とそっけなく言うと、あかねはさらに表情を曇らせて
「・・・そう・・・」
と言うだけだった。
それが余計に俺の心を締め付けた。
ごめん、そう思っても口に出すことは出来なかった。

しかし、俺の我慢にも限界があったのだ。

ある日の放課後、あかねは日直で、黒板に書かれた文字をを黒板消しで消していた。
そこに、一緒に日直をしている男がやってきて、おもむろにあかねに近付き
「手伝おうか?」
と声を掛けた。
あかねは
「もうすぐ終わるからいいよ」
と笑顔で答えていた。
しかし、男は
「いや、高いところは届かないだろうし、代わってあげるよ」
と言って、黒板消しを持って消しているあかねの右手に、自分の右手を重ねたのだ。

俺は自分の席に座って教壇の方をじっと見ていたが、その光景にとうとうブチ切れた。
机がバキィッと派手な音を立てた。
力任せに叩いた机は壊れてしまった。
まだHRが終わった直後で教室にはかなりの人が残っており、皆が一斉に俺を見た。
しかし俺は今、そんなことを気にしている余裕はなかった。

「いいか! あかねは俺の許婚だ。指一本でも触れたら・・・容赦なく叩き潰す!! 覚えておけ!!」
俺はそのまま勢いで
「帰るぞ! あかね」
とカバンをひったくるようにして、教室を後にした。

有無を言わさず、どんどん歩いて学校の外へ出る。
あかねは時々「ま、待ってよ!」と言いながらも、俺のスピードになんとかついてきていた。

何度目かのあかねの「待ってったら! 乱馬!!」という声を聞いて、俺は立ち止まった。
そして、今までの不満を全てぶちまけた。

「お前な! 他の男にあんなに笑顔で話すなよ! っていうかしゃべるな! 口を聞くな! 笑いかけんなあっ!!」
あかねは、俺の突然の激昂に心底驚いた顔をしていた。
俺は、まくし立てるだけまくし立てて、あかねの顔が見れなくなり、反対方向を向いた。

「乱馬・・・」
あかねの静かな声に、ドキッとする。
恐る恐る振り返ると、あかねは真っ直ぐに俺を見上げていた。

「乱馬・・・ごめんね?」
謝られると余計に自分がみじめになって、俺は下を向いた。

すると、あかねが俺にフワッと抱きついた。
「ありがとう・・・嬉しかった」
泣きそうな表情で言うあかねを見て、俺も優しく抱きしめると、心が満たされていくのを感じた。
穏やかな気持ちになれた。

しばらくして落ち着くと、俺たちはどちらからともなく離れて、ゆっくり歩きながら家に帰った。

家に入る直前に、あかねが
「うれしかった・・・やきもちやいてくれて。みんなの前であんな風に言ってくれたし」
うれしそうにそう言ったのを聞いて、俺は皆の前で大変なことをしたのを思い出した。

もちろんその後、このことを1年間ずっと皆からからかわれたのは言うまでもない。
いや、あかねに悪い虫が寄らなくなっただけよしとしよう。

それにしても・・・。
俺はあの時のことを思い出しては、恥ずかしさで顔を押さえるのだった。


2005.06.12
あゆりさまのサイト「さくらドロップ(閉鎖済)」10万打のお祝いとしてお贈りしたものです。
リクエストは『新学期』。

「らんま」に年をとる行事はどうやって書いたらいいかな、とかなり悩んだのですが、このような形になりました。
学期の初めにこんなことをやらかしても、あの学校の人たちならきっと受け入れてくれると思う。