テスト勉強いたしましょう

2月のある日。
雪が窓の外の景色を、少しずつ白に染めていく。

夜の真っ暗な中でも雪って見えるんだな・・・光ってて綺麗だ。

そんなことをぼんやりと考えていたら、急に遮られたその視界。
「乱馬! もう、集中してよっ」

あかねは目の前の窓のカーテンを閉め、頬を膨らませて俺を見た。

やべ。
勉強中だったんだ・・・。


期末テストまであと一週間。
あかねは何だか今回とても焦っていて、やたらと「勉強しよう」と言ってくる。

仕方がないのであかねの部屋に行き椅子を並べて机に向かってはみるものの、端からやる気のない俺にはつまらないことこの上ない。
どうしたって教科書やノート以外のものに目を移してしまう。

ちっともやろうとしない俺にあかねはますますイライラを募らせているようだったが、俺はそんな彼女を横目に部屋を見回す。

・・・付き合う前は、足を踏み入れるだけでドキドキしていた、あかねの部屋。
そりゃそーだろ。
ベッドとかどーんと控えてるわけだし。
今となっては見慣れた物・・・なんて、あかねに言ったら殴られるな。

「・・・乱馬! 乱馬ってば!!」
「・・・へ?」
「もー。ちゃんとやってよっっ!! 今回は、最後の期末テストなんだからね!? ここで真面目にしなくちゃ、本当に進級出来ないかもしれないんだよ!?」


はあ・・・。
ちょっと静かになってもらおうかな。


「なあ、あかね」
突然椅子の向きを変えて顔を近づけると、あかねは椅子ごと大きく一歩引き下がった。

予想通り。
こういう反応をされると、もっと苛めたくなる。

俺は下がった椅子を引き寄せて元の位置に戻した。
あかねは少し顔を下げ視線を逸らした。

「進級出来るかどうかってのは俺の問題だろ? あかねは成績優秀なんだから。それとも、俺が進級出来ないとあかねが何か困ることあんの?」
「べ・・・別にないけどっっ・・・」
顔をプイッと逸らした彼女に、俺はすぐさま言葉を続ける。

「じゃあいいじゃん。俺がいいって言ってるんだから」
冷めた声にあかねは俯いた。
そしてやがて小さな声で

「・・・・・・っ。・・・あたしは・・・嫌、なの・・・。同じクラスに、乱馬がいないなんて・・・」
と消え入りそうに呟いた。


可愛い。


こーゆーことを素直に口に出せるようになったあかねは本当に可愛い。
俺の理性なんか簡単にブチ切ってくれちゃうんだなこれが・・・。

俺は目の前のあかねに、そっと右手を伸ばした。
頬にかかる横髪をすくって耳にかけたが、すぐにまたスルリと落ちてしまった。
もう一度、今度は両手を横髪の中に入れて、優しく顔を上げる。
あかねは困ったように視線を逸らしたが、抵抗はしなかった。

それを合図に、俺は彼女の紅く美しい唇にゆっくりと口付けた。
そして、そのまま・・・。


「ちょ、ま、待って!!!」
首筋を舐めた俺を力いっぱい押してあかねは叫んだ。
「・・・なんで?」
俺は普通に聞いてみるものの、
「『なんで?』じゃないでしょ!? さっきあたしが言ったこともう忘れたの!?」
と捲し立てる。

「・・・・・・」
「だーかーらーっ、勉強しなきゃダメなんだってば!!」
あかねは真っ赤な顔をしたまま、必死で反論していた。

「とにかくっ、テストが終わるまで、触っちゃダメ! もし進級出来なかったら・・・ずーっと一切こういうことしちゃダメだからねっっ!!!」


待て。


ずーっと一切って、ずーーーーっと??
そ、それは困る・・・いや、無理!!

・・・と言いたいが、あかねの目は真剣だ。
これ以上彼女の意思を無視すると、もっと怒らせるか、泣かせる。

ここは素直に従って、1週間後に発散させてもらうしか・・・。
マジかよ(泣)

俺は行き場を失くした手を所在無げにさまよわせながら呟いた。
「わーったよ。その代わり・・・俺が無事進級出来たら、ご褒美くれよ」
「・・・ご褒美?」
「そう、『ご褒美』。いいだろ?」
「・・・・・・」

あかねは、何のご褒美なのかを考えているのか、返事に困っていた。
そこをすかさず
「よし、決まりな! じゃ、俺頑張るから。しっかり教えてくれよ」
強引に推し進めて話題を変える。

ふっ、俺はな、やろうと思えば何でも出来るんだよ!
見てろ、あかね!!


あかねは一週間後、見事に俺に『ご褒美』を好きなだけ差し出すことになり、俺はそれを存分に堪能したのだった。


2007.01.30
映里さまにお贈りしたものです。甘いお話が好きとのことで、思うままに甘くしてみました。

ラブラブな二人を書くのが目標だったんですが、そのために乱馬がやたら怪しい発言連発・・・「見慣れてる」「静かになってもらう」「発散」「堪能」など。ご褒美が何だったのかは・・・言わずもがな。
甘い話を書こうとすると、どうしても乱馬さま→あかねのネタばかり浮かんできます。
一回手に入れたらもーメロメロに愛してくれるのが理想。そんなうちの早乙女です。