モノローグ -side R-

それは、親父が俺に「お前には許婚がいる」と告げた、ある日のことだった。

「勝手に許婚なんて決めやがって!」と俺は思いっきり反発した。
俺は女を好きになったことがねーし(もちろん男もない!)、そんなことはまだずっと先の話だと思っていたから。

まずは中国・呪泉郷に行って完全な男に戻る。
それからまた修行の日々。
恋愛や許婚なんてその後からで充分だった。

そんな俺の意志を無視して無理矢理連れて行かれた天道道場に──その子はいた。

女の姿をしていた俺に「仲良くしようね」と優しく笑いかけてくれた。
その子が許婚だと聞いてちょっとドキッとしたのだが、あっさり「あんな変態、お断りよっ!!」と言われ倍にして言い返してしまった。

もうあれ以来、口げんかは日常茶飯事だ。
今思えば、俺があかねに対して素直になれない、最初の要因はあれかもしれない。

あかねに好きな奴がいるってことは、すぐにわかった。

初めて風林館高校へ行く途中、そいつに会ったから。
俺にはでけー声で怒鳴り散らすくせに、そいつの前では別人のように大人しくなるんだからわからないはずがない。
まあ、相手は大人で優しくて名医、それに強い。
好きになる要素はありすぎるほどあった。

別に俺には関係ねーし、いいやって思った。
ただあまりに態度が豹変するあかねにはちょっとムッとしていたけど。
それだけだ。
俺にもう少し優しく接してほしいとか思った訳じゃない。決して。

学校でもみんなから許婚だの何だのって転入早々騒がれて、クラスの男共からは「あかねとどこまでいった?」なんて質問されるし・・・。
まああれだけの男共から好かれてりゃ嫌でも目立つからなあ。
どこがいいんだ? あんなかわいくねー女。
そりゃあ、笑顔とか少しは・・・かわいいけどさ・・・。

東風先生がかすみさんを好きで好きでどうしようもないってことは、一度二人が一緒にいるところを見ればすぐに分かることだった。
それを見るあかねの泣きそうな顔をどうにかしてやりたくて「笑うとかわいいよ」ってつい本音を言っちまった。

そのあと、あかねの部屋を窓からこっそりのぞいたら、真に受けて鏡に向かって笑いかけてるからますます可愛くて、思わず窓を開けて憎まれ口を叩いたらまたきついのを一発もらっちまった。

ちぇっ・・・。本音と照れかくしの違いくらい、分かれよな。

俺は、好きな子は絶対守る。
この命と引き替えにしても、絶対守るし、離さない。

わかったんだ。恋愛なんて十分強くなってから、っていう俺の考え方は間違ってたって。
本当に守るべきものがないと、真の強さは手に入れられない。
「守りたい」って思う人がいて、そばにいてくれるだけで強くなれる。
「自分が、守るんだ」って思うだけで、どんな相手にも負ける気がしない。

それを教えてくれたのは────。


2003.01.04
前サイトを始めた頃に書いた短文、乱馬視点。
乱あの始まりとして書いておこうと思った文章です。