モノローグ -side A-

それは、お父さんが「許婚」なんて突拍子もないことを言い出した日のこと。

「あかねに決定ね」って言われても困る。
だってあたしには・・・好きな人がいたから。

あたしがどんなに頑張っても、きっとかすみお姉ちゃんにはかなわない。
だけど、お姉ちゃんよりずっと長くなった髪に、かすかな望みをかけていた。
髪を伸ばして、女らしくなれば愛されると信じたかった。

大体、あいつ──乱馬との出会いは最悪。
初めて男の姿を見たのはよりによって風呂場だったし、おれの方がプロポーションいいなんて人が気にしてることをずけずけ言ってくるし・・・。

乱馬がすごく強いことはすぐにわかった。
きっとあたしなんかが敵う相手じゃない。
でも武道家の娘としては、本気で手合わせしてみたかった。
言ってみたけど・・・九能先輩に邪魔されて出来なかった。

そうして乱馬はいつもひらりと違うところへ行ってしまう。
気になって、つい追いかけてしまう。

別に特別な感情があるわけじゃない。
ただ、すぐにトラブルを巻き起こすから心配なだけ。

乱馬とは、何度かほねつぎ屋さんに一緒に行った。
そのうち2回は、あたしのせいなんだけど・・・。
東風先生には、すぐに子ども扱いされてしまう。
『どうせ子どもよ』と思いながらも、胸がチクリと痛んだ。

髪が短くなった時、あたしの恋は終わったと思った。

「似合う・・・かな・・・」
精一杯なあたしの言葉に、「短い方があかねちゃんらしい」と返した先生。

結局最後まで、あたしの想いに気付いてもくれなかったけど。
思いっきり泣かせてくれたから、いいんだ。

今度好きになる時は、背伸びしなくてもいい人にしよう。
あたしが自然体なままで、好きでいられる人。
そしてそんなあたしを、好きだと思ってくれる人。

髪を伸ばさなくても「短いのが好き」って言ってくれる人が、いいな────。


2003.01.05
前サイトを始めた頃に書いた短文、あかね視点。
当初は原作に沿ったお話しか書けませんでした。