はちみつ色の朝

初めて一緒に迎えた朝は、カーテンの隙間から優しい光が差し込んでいた。

その光に導かれるようにゆっくりと目が覚めた。
・・・少し眩しい・・・。

今、何時なんだろう・・・。

現実的なことを考え出した途端、身体に重みを感じる。
それが乱馬の右腕だと気付くまでに、少しの時間を要した。

そっか・・・。昨日、乱馬がこの部屋に来て・・・。

急に昨夜のいろんなことが思い出されて、頬が赤くなるのを感じる。
静かに寝息を立てているその人から、見られていないはずなのに顔を逸らす。

顔を逸らした時、本当は身体ごと背を向けようとしたんだけど、胸の上にある右腕と、頭の下にある左腕が、ぎゅっとあたしを抱きしめて離さない。
寝返りさえ打てないほど強固な力。
なのに痛くない。

大事に大事に守られてる、そんな気がして、嬉しくなった。

乱馬は、出会ったときから荒っぽくて口が悪くて、いつもひどい言葉を投げ掛けられて、ケンカして。
あたしも、それに対抗して罵ったり叩いたり。
素直になれなくて、可愛くない口を利いて。

あたしは、乱暴だし、不器用で料理一つまともに作れないし、縫い物も出来ないし、泳げないし、可愛く甘えたりすることも出来ない。

・・・なのに、乱馬はあたしを好きになってくれた。
「好きだ」って、優しく抱きしめてくれた。


もう一度彼の方に顔を向けると、すぐ近くに無防備な寝顔があって。

普段あんなに強い人だと思えない、全く警戒心のないその寝顔を見ていたら、なんだか涙が出てきた。
あたしが世界中で一番好きな人は、あたしのことを世界中で一番好きなんだって────。

もうこれ以上、何も望むことはありません。
ただこの幸せを、ずっとずっと、ずっと・・・・・・。

彼の顔が涙でよく見えない。
ほとんど自由にならない手をちょっとだけ動かしたら、解かれた柔らかい髪の先に触れた。
もっと愛しい気持ちが募った。

「う・・・ん・・・?」

え?
わずかに身じろぎして、顔をしかめる彼。
お、起きる!?

あたしは咄嗟に、顔を背けて目をつぶった。
だってだって、どんな顔したらいいの!?

「ん・・・。あ、朝か・・・・・・」

乱馬の呟きが聞こえる。
やっぱり起きちゃった。
寝顔見れなくなって、ちょっと残念だな・・・。

「・・・7時か。朝のトレーニング・・・ま、今日ぐらいいいか、ゆっくりしても・・・誰もいねーんだし・・・」

時計を見るために少し起き上がった乱馬はそう言いながら、体勢を変えて腕枕をし直した。
左肘をついて、上半身を起こしているみたい。

・・・顔、思いっきり見下ろされてる・・・?

そう思った瞬間、ふわりと頭を撫でられた。
今までずっとあたしを守ってくれた強い右手が、これ以上ないほどに何度も優しく髪を梳く。
見つめられているのがわかる。
温かい視線を感じる。

「なーんでこんなに愛しいかな・・・」
撫でていたその手が、ふと何故か止まった。

何かと思い瞳をそっと開けると・・・真上に、目に涙を溜めている乱馬がいた。

ぎゅーっと心が掴まれたみたいに、また涙が溢れてきた。
身体ごと乱馬の方を向いて、胸に顔をうずめる。

「あかね・・・・・・?」

起きているのか寝ているのか、わからないんだろうな。
乱馬が窺うようにそっとあたしに声を掛ける。

あたしはゆっくりと、本当にゆっくりと顔を上げた。
「・・・おはよう」
笑顔でそう言ったら、
「・・・おはよ・・・」
乱馬も、はにかみながらゆっくりと返してくれた。

はちみつ色の甘い光に照らされて。
私たちは、笑い合った。

ずっと一緒にいたい。
いつまでも、二人で、こうして幸せな朝を迎えようね。


illustrated by バナナさま


2006.10.30
バナナさまのサイト「はちみつ堂」開設のお祝いと、猫乃が結婚した際に頂いた絵のお礼を兼ねてお贈りしたものです。

差し上げたら、この小説の雰囲気に合わせたイラストを、お返しに頂いてしまいました。
穏やかで落ち着いた雰囲気の乱馬さまと、恥じらいつつもめちゃくちゃ幸せそうなあかねちん・・・可愛いっ!!
テーマをサイト名にちなんで「はちみつ」にしてしまったために、出来あがったものがやたらと甘い。
はちみつっていったら、もー甘いとか可愛いとかそういうイメージで。
自分ではこの甘ったるさがすごく気に入ってたりします。